アンヘラ――もう一つの帰る場所
更新日:5 日前
家族と自然、そして忘れていた小さな懐かしさに包まれた、ビジャアルタでの数日間。
アンヘラは夢の家を手に入れました。そして、遠くで暮らす私にとっても、もう一つの帰る場所になりました。
アンヘラがかなえた夢
ビジャアルタにあるアンヘラの家を訪れて、最初に心に浮かんだのは、ただ一言でした。
「夢をかなえたんだな」
自分の家を持つこと。静かな環境で暮らすこと。自然を身近に感じながら、アントニオと穏やかな毎日を築くこと。そして、小さくて温かい村に自分たちの居場所をつくること。
ここは、ただ村に建つ一軒の家ではありません。
アンヘラの姿を見ながら、「本当に、ここまでたどり着いたんだな」と思える場所です。彼女が望んでいた暮らしを自分の手で築いたことが、私は心からうれしいです。
今も挨拶が交わされる村
ビジャアルタを歩いていると、道ですれ違う人たちから自然に声がかかります。
「Buenos días(おはよう)」「Hola(こんにちは)」「Hasta luego(またね)」
とても小さなことですが、長い間スペインを離れて暮らしている私には、その一言一言が新鮮に感じられました。
私は日本を心から愛しています。ここで、どちらの文化が優れているかを比べたいわけではありません。
日本にいると恋しくなるスペインのものがあり、もし日本を離れたなら、きっと今度は日本にある多くのものを恋しく思うのでしょう。
二つの文化の間で長く生きていると、どちらか一方を選ばなくてもよいのだと気づきます。人は心の中に、二つの大切な場所を持つことができるのです。

静けさも風景の一部になっている、ビジャアルタ。
言葉を越えてつながるテオと家族
この数日間、テオがアンヘラと遊ぶ姿を何度も見ました。
みんなでテーブルを囲んでゲームをしたり、話したり、笑ったりする時間がありました。テオはまだスペイン語をすべて理解できるわけではありません。それでも、一緒にいる楽しさや家族の温かさは、きちんと伝わっていました。
愛情に翻訳はいりません。
日本で育ったテオにとって、スペインの家族と日常的に過ごす時間は、幼い頃から積み重ねることが難しかったものです。
でも今、彼は自分自身の経験として、スペインの家族との思い出をつくり始めています。
この旅は、私が過去を懐かしむためだけのものではありません。テオがこれから持ち続けていく、新しい家族の記憶を育てる旅でもあるのです。

あの日々、一緒に遊ぶテオとアンヘラ。

ビジャアルタで一緒に過ごすテオと祖母。
暮らしのぬくもりがある家
アンヘラ、アントニオ、母、テオ、そして私。
みんなで同じテーブルを囲み、手料理を食べ、話をしました。食事が終わってもすぐには席を立たず、そのまま会話をゆっくり続ける、スペインの「ソブレメサ」の時間もありました。
長い間、遠くで暮らしていると、恋しくなるのは大きな出来事ばかりではありません。
誰かが用意してくれた食卓。終わる時間を決めずに続いていく会話。そして、急いでどこかへ行く必要がないと分かっている時間です。
家とは建物だけではなく、そこで一緒に過ごす人たちの時間によって、少しずつ温かくなっていくものなのだと思います。

ビジャアルタの夕暮れを一緒に過ごすアンヘラと母。
小さな村に残る大きな物語
アンヘラとアントニオと一緒にビジャアルタを歩きながら、この村が持つさまざまな表情にも触れました。
墓地では、アウレリオ・テノの作品「El Rey de la Cetrería」に出会いました。村を歩くことが、その土地の芸術や文化を知る時間にもなりました。

ビジャアルタの墓地にあるアウレリオ・テノの作品。
また、ナチスの強制収容所へ送られたビジャアルタ出身者を追悼するプレートも目にしました。
長い歴史の説明を読まなくても、その場所の前に立つだけで、簡単には通り過ぎてはいけない記憶があることが伝わってきます。
小さな村にも、忘れてはいけない大きな物語があります。

ナチスの強制収容所へ送られたビジャアルタの住民を追悼する碑。
Virgen de los Emigrantes
数ある場所の中で、最もまっすぐ私の心に語りかけてきたのが、Virgen de los Emigrantes(移民の聖母)でした。
私もまた、故郷を離れて生きてきた一人です。
若い頃にコルドバを離れ、日本で自分の人生を築いてきました。そして何十年もの時を経て、今こうして戻ってきています。
コルドバと日本。旅立つことと、帰ること。離れて暮らすことと、心の中でつながり続けること。
Virgen de los Emigrantesという名前を見たとき、自分自身の人生を静かに映しているように感じました。

今回、最もまっすぐ心に語りかけてきた場所のひとつ、Virgen de los Emigrantes。
スーパーの通路で気づいた懐かしさ
アンヘラ、アントニオ、母、テオと一緒にカルフールへ行った時間も、思いがけず心に残りました。
商品の名前を読むことができます。原材料も、何に使うものなのかも、頭の中で翻訳せずに自然に理解できます。
TostaRica、ColaCao、ハモン、チョリソ、マグダレナ、さまざまなお菓子や化粧品。子どもの頃から知っている名前や、スペインの日常にある商品が、通路の両側に並んでいました。
スーパーを恋しく思う日が来るとは、考えたこともありませんでした。
でも、もしかすると恋しかったのはスーパーそのものではなかったのかもしれません。通路を歩きながら、そこにあるものを何の努力もせず、すべて理解できる感覚を恋しく思っていたのです。
マグダレナの袋のような、本当にささやかなものを前にして、自分が故郷をどれほど懐かしく思っていたのかに気づくことがあります。
これは、日本での暮らしを否定する気持ちではありません。長い間離れていたからこそ、心の奥に静かに残っていた懐かしさに気づいたのだと思います。
空から届いた、予定のない思い出
ビジャアルタでは、日食の様子を見守ったり、夜にペルセウス座流星群が現れるのを待ったりもしました。
何か特別な知識を得るためではありません。ただ家族と一緒に空を見上げ、現れるかもしれない瞬間を待ちました。
何か月も前から計画してつくる思い出もあります。けれど、突然目の前に現れ、その場にいるだけで受け取ることのできる思い出もあります。あの夜の空も、そんな贈り物の一つでした。

山々と馬に囲まれたビジャアルタの自然。
もう一つの「帰る場所」
今日、私はビジャアルタを後にし、母の家へ戻ります。
アンヘラが長い間夢見てきた場所を見つけ、望んでいた暮らしを築いたことを、自分の目で確かめることができました。そのことが本当にうれしいです。
そして、温かく迎えてくれたアントニオにも、心から感謝しています。
私が遠く離れた場所で自分の人生を築いている間、愛する人たちも、それぞれの人生を築き続けていました。
帰ってきた私は、そこに新しい場所が待っていてくれたことに気づきました。
アンヘラは、ただ自分の家の扉を開いてくれたのではありません。私がきょうだいであること、息子であること、そして家族の一員であることを、もう一度心から感じさせてくれました。
アンヘラは夢の家を手に入れました。そして本人も気づかないまま、遠くで暮らす私がまた帰ってこられる、もう一つの場所までつくってくれたのです。
AlitaDePollo
クレジット
文章:Benito García · 署名:AlitaDePollo
写真:Benito Garcíaの家族アルバムより。
主な場所:スペイン、コルドバ県ビジャアルタ。
登場人物:アンヘラ、アントニオ、テオ、ベニトの母。

夜空の星と共に美しい思い出がまた一つ出来て良かったですね🙏❤️✨情景が思い浮かぶようです🥰✨